いやあ・・・。 なんともすさまじい一局でした。 【追記】ヒューリック杯棋聖戦の棋譜はで公開されています。 この記事は・・・というか筆者がいつもこのヤフーニュースで書いている将棋の記事には、将棋の指し手を表す、棋譜の符号がいくつか出てきます。 将棋にあまり詳しくない方のため、それは最小限にと心がけてはいます。 しかしこの記事のように、どうしても符号が必要な場面は出てきます。 「符号が出てきたらもうそこで読む気をなくす」 そういう方は、符号の意味を理解する努力をされる必要はまったくありません。 適当にうまく読み飛ばしてください。 (観戦記は)図面と指し手はいっさい見ない。 これが面白く読むコツで、多くの人は、指し手を目で追ったりするから、すぐくたびれてしまう。 文を読み、面白いと感じたら、そこで場面を見れば十分である。 出典:河口俊彦八段『将棋界奇々快々』 以上が先人から伝わる、将棋の記事を楽しく読むポイントです。 対局者の渡辺棋聖をはじめ、誰もが予想できなかったこの金上がりは、新時代を告げる歴史的な一手として後世に伝えられるでしょう。 そしてその16手後。 ABEMAの中継で表示されている「将棋AI」は局面を解析し、藤井七段の勝率を「61%」と判定していました。 やや優勢、というところです。 「将棋AI」が示す候補手は次の通りでした。 しかし考えた末に、その順を採用しませんでした。 藤井「激しい変化になるので成算が持てなかったです」 局後に藤井七段はそう語っていました。 これもまたよさそうな手で、そうされると渡辺棋聖は自信が持てなかったようです。 この手を指し、藤井七段は席を立ちます。 渡辺棋聖は驚いたような仕草で、頭に手をやりました。 そのため、対局室の音は拾われていません。 渡辺棋聖は対局中、何度か「いやあ・・・」とつぶやいていました。 この時も仕草を見る限りでは「いやあ・・・」というぼやきが聞こえてきそうです。 渡辺玉の寄せに使えそうな貴重な持ち駒の銀を、自陣の金取りを受けるため、防戦一方に打ってしまった。 そんなありがたい手のようにも見えます。 ABEMA「将棋AI」が示す勝率は藤井61%から54%~57%へと戻りました。 解説の阿部健治郎七段と加藤桃子女流三段が声をあげます。 どっかに打ったんですね。 えっ? 盤面見てもわからないですよ」 加藤「クイズみたい(笑)」 屋敷「もしかして受けたんですか。 これは・・・何でしょう? やり直しですね。 少なくとも人類側の達人が有力な候補手として挙げることはなさそうです。 実戦でも渡辺棋聖はよくする順を見つけられず、敗戦に至りました。 しかしどうも、渡辺棋聖よしの変化はなかったようです。 渡辺「じゃあやっぱそうか、銀入れられてきついんですね。 いやあ、そうか、銀ね・・・。 そうか、銀か・・・」 渡辺棋聖は対局中だけではなく、感想戦でもまた「いやあ」とうならされたわけです。 渡辺棋聖はブログに次のように記しています。 今年2020年の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝したのは、水匠というソフトです。 開発者は杉村達也さんという弁護士さんです。 対局が終わった後、杉村さんは以下のツイートをされていました。 どういうことでしょうか。 ざっくりいえば、最強ソフトが最初はベスト5にも入らないと判断した候補手が、6億手(局面)以上を読んでようやく最善手として浮かび上がった。 そんな手を藤井七段は23分で指した。 そういうことになりそうです。 水匠の最新バージョン(水匠2)は無料でダウンロードできます。 もし興味のある方は、追実験をなさってみてください。 筆者の普段使いのソフトも水匠2です。 いかに研究が行き届いている藤井七段といえども、将棋は千変万化。 つまり藤井七段は対局中、限られた短い時間の中、比較検討の末に、自力で最善と判断して指した手というわけです。 これは藤井七段が23分で6億手を読んだことを意味するわけではありません。 (たぶん・・・ですが) ではなぜ最強ソフトが6億手を読んだ末に最善と判断できる手が指せるのか。 これはまさに「大局観」という、将棋界における伝統的な概念で理解するよりなさそうです。 将棋の達人はそれほど多くの手を読まなくても、脳内に蓄積されたいくつかの判断基準から、自然と最善手が思い浮かびます。 これが大局観です。 藤井七段の読みは質、量、速さともに抜群です。 たとえば41手の古典詰将棋を二十数秒で解いたこともありました。 しかし読みの量と速さだけを言えば、コンピュータにはかないません。 それを大局観でカバーして最善を導き出した。 そう理解するのが自然でしょう。 熱烈な藤井ファンなら「ああ、あれね!」とすぐ図面が再現されるでしょう。 この歴史的妙手も、やはりコンピュータは時間をかけて読まないと最善手として導き出せなかった、という点で話題となりました。 将棋史に残る鮮烈な一手。 藤井は将棋ソフトにも浮かばない、独自の寄せの構図を描いていた。 誰もが納得の選考でしょう。 正直なところ、筆者もどこまで理解できているのか、まったく自信がありません。 しかしそうした誰もが思いつかないような地味な名手を指せるのもまた、藤井七段のすごみです。 藤井七段には現在、タイトル獲得の史上最年少記録更新という期待がかけられています。 なるほど、その記録がもし実現されれば、藤井フィーバーはさらに加熱し、大変なことになりそうです。 それは将棋界の内外を問わず、多くの人が実現してもらいたいと願っているイベントかもしれません。 しかし藤井七段は、そうした記録にはほぼ興味がないようです。 報道陣は仕事なので、記録に関して繰り返し質問をします。 藤井七段の回答はデビュー以来一貫していて、そうした記録などよりもまず、棋力向上を目指して努力するという旨が繰り返し述べられています。 藤井七段の純粋な姿勢は変わりません。 だからこそ、神からの恩寵のような才能がその身に宿り、人々が予想だにしない、呆然とするしかないような名手を、盤上に表すことができるのかもしれません。
次の6月10日。 10時に始まった対局は21時21分に終局。 結果は110手で大橋六段の勝ちとなりました。 大橋六段はこれで本戦(ベスト16)進出。 1回戦では斎藤慎太郎八段と対戦します。 一方の藤井七段は今期王座戦で永瀬拓矢王座へ挑戦する可能性は絶たれました。 また昨年度3月から続いた連勝も10でストップしました。 大橋六段、後手番で横歩取り3連投 藤井七段先手で横歩取り。 大橋六段は過去に後手番で藤井七段を相手に横取りに誘導して2連勝。 そして本局でもまた横歩取りに誘ったことになります。 互いの大駒が中段でにらみあい、早い段階でこの戦型特有の激しい展開となりました。 大橋「序盤からなかなか難しいというか、どうでしたかね。 ちょっと判断がつかなかった将棋だと思うんですけど。 ちょっと無理気味に動いていたような気もしたんですけど・・・。 まあ、難しかったですかね」 大橋六段は35手目、1時間44分の長考をしました。 そして角銀交換の駒損から藤井陣に飛車を打ち込んで迫ります。 大橋「あそこは何かこちらはやっていかないといけない局面になっていたので。 ちょっと(角銀交換の駒損で)角を切るというのは結構決断のいる一手だったんですけど。 大橋六段が逆に駒得となったものの、藤井玉は安全な方に逃げ出して安定。 藤井七段が飛角角の大駒3枚を駒台に乗せて、藤井七段ややリードかというところでした。 藤井七段は大橋玉にすぐに迫るか。 それとも逆サイドから攻め入るか。 どちらも考えられそうなところで、藤井七段は後者を選びました。 対して大橋六段は持ち駒の金を打ち、龍取りで対応をうかがいました。 途中で誤算があってそのあたりから、なんていうか、だめにしてしまったのかなという気がします」 藤井七段は2枚目の飛車も大橋玉から遠い端に打ちました。 このあたりの方針がどうも疑問だったようで、大橋六段が差を詰めていきます。 というべきでしょう。 そして相手の大橋六段がまた強かった、というべきでしょう。 少しずつ藤井七段が失点、大橋六段が得点を重ねたようで、いつしか形勢ははっきり大橋六段が優位に立ちました。 藤井七段は残り時間の8分をすべて使い切って、あとは一分将棋となりました。 そして玉の早逃げをします。 しかし左右はさみ撃ちの形は解消されません。 時間もない中、藤井七段は苦しい終盤が続きます。 対して大橋六段は55分を残しています。 そして3分を使って藤井玉に成銀を寄せ、勝利のゴールへと近づいていきます。 大橋六段の2枚の馬(成角)が急所に働いているのに対して、藤井七段の飛車と龍(成り飛車)が盤上隅に封じ込められているのが痛い。 さすがの藤井七段も万事急すか。 そう思われたところで、最終盤を迎えました。 幻の逆転劇? 藤井七段は大橋玉を一段目に落とし、三段目に香を成り込んで詰めろをかけます。 ここをしのげば大橋六段の勝ち。 そして一見、受けは比較的簡単ではないかと観戦者には見えました。 しかしそれがどうも簡単ではないようです。 いくつかの受けはあっという間に逆転につながります。 大橋六段も時間を使って考え始めました。 将棋を勝ち切ること、中でも藤井七段を相手に勝ち切ることは、そう簡単ではない。 それを痛感させられるような場面でした。 「もう評価値は関係ないぞ!」 解説者の藤森哲也五段がそう叫びます。 ソフトが導き出す評価値がいかに離れていようとも、わずか一手誤っただけで逆転するのが将棋です。 大橋六段は44分のうち16分を使って、銀を打ちました。 これがほぼ唯一に近い正解だったようです。 藤井七段は隅で遊んでいる攻めの主力の龍を、大橋陣外郭の守備隊長である金と刺し違え、勝負を捨てずに指し続けます。 90手目。 これはさすがの好手か・・・と思いきや。 ソフトが示す評価値は数千点差がひっくり返り、逆に藤井よしを示しています。 これはまさかのドラマが起こったのではないか・・・? 「何が起きてるんですか?」 解説の飯塚祐紀七段も驚きの声をあげました。 以下、大橋六段は王手で飛車を打ち、自玉上部をしばる成香を抜くことに成功します。 これで今度こそ、勝負あったようです。 大橋六段が最後の勝ちを確認をする時、藤井七段はしばし中空を見上げていました。 先日の棋聖戦第1局。 藤井挑戦者を相手に負けを確認した時、渡辺明棋聖もまた、同じような仕草を見せていました。 「プロの仕事ですね。 素晴らしい将棋です」 飯塚七段は大橋六段の技量を称えました。 垣間見えた負けず嫌いの片鱗 藤井七段はマスクを少しずらしてお茶を飲みます。 そしてまた中空を見上げ、そしてがっくりと首が折れました。 藤井七段であれば、数秒もかからず自玉の詰みは読み切れるところでしょう。 そこで投了してもおかしくはない。 しかし藤井七段は投げきれないかのように、駒台の歩を手にして、合駒に歩を打ちます。 これだけ打ちひしがれた様子の藤井七段を見るのは、本当に久しぶりのことです。 幼少時の藤井少年は名うての負けず嫌い。 将棋に負けるたびに大声をあげて泣くことで、地元将棋界では有名でした。 そして10回に1度か2度か。 負けても終局後は、冷静に敗局を振り返っています。 しかしそれでもごくたまに、対局中、負けを自分に言い聞かせ、受け入れざるをえない瞬間に、今でも本質的には変わらない、負けず嫌いの心の奥底を垣間見せることがあります。 110手目。 大橋六段は銀で藤井玉に王手をかけます。 藤井七段はじっとうつむいたままです。 「50秒、1、2、3、4・・・」 記録係の秒読みの声にうながされるようにして、藤井七段は一礼。 「負けました」 マスクの奥から声をふりしぼるように、そう告げました。 頬に手を当て、しばらくまたうつむき、そして中空を見上げました。 大橋六段は難敵中の難敵を降し、これで王座戦本戦進出。 1回戦で斎藤慎太郎八段と対戦することが決まりました。 大橋「そうですね、変わらず・・・。 自分らしく何か指していきたいなと思います」 大橋六段は対藤井戦の成績は2連敗からの3連勝。 しかもその3連勝はすべて後手番を持ってのことです。 先手番の藤井七段にこれだけ勝っている棋士はいないようです。 インタビューで本局を振り返る際には、藤井七段はいつものしっかりした受け答えで応じました。 藤井「残念な結果でしたけれども、内容を反省して、次につなげたいと思います」 藤井七段はそう語りました。 感想戦は手短に、7、8分ほどで終わりました。 東奔西走の日々が続く藤井七段。 大阪・関西将棋会館を後にして、新幹線で地元愛知県に帰っていきます。 藤井七段の連勝は10でストップし、今期王座戦はここで敗退となりました。 しかし藤井七段は他にも多くの棋戦で勝ち残っています。 ほとんど休むまもなく13日。 王位戦リーグ最終局、阿部健治郎七段戦が控えています。
次の5ch. ABEMAの中継で表示されている「将棋AI」は局面を解析し、藤井七段の勝率を「61%」と判定していました。 やや優勢、というところです。 「将棋AI」が示す候補手は次の通りでした。 しかし考えた末に、その順を採用しませんでした。 (略) 渡辺棋聖はブログに次のように記しています。 今年2020年の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝したのは、水匠というソフトです。 開発者は杉村達也さんという弁護士さんです。 対局が終わった後、杉村さんは以下のツイートをされていました。 15 ID:wp2U4ubz0. 93 ID:PkphxAjV0. net.
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